本店 笹原芳樹

 大学一年生の秋に、友人と北鎌尾根に行った時のことでした。
 夜中に寝ていたら、突然、熊にテントごと引きずられたんです。ザックの中の食料を狙われたんですが、結局その時装備のほとんどを失ってしまいました。下山後しばらくして、高校時代の先輩に装備買い直しの話をしたら、カモシカスポーツを紹介されました。
 当時のカモシカスポーツは裏通りにあって面白いものが色々置いてあるお店だったんですけど、GORE-TEX®製品がなかった。それで、ゴアを置くようにしつこく頼み込んだりしていたら顔を憶えられて、そのうちアルバイトに誘われて働くことになりました。
 それがこんなに長いお付き合いになるとは、当時は思ってもみなかったです。

私の山について

 子供の頃から親と一緒によく山に行っていましたが、自分の中では13歳で登った浅間山が登山人生の始まりだと思っています。
 中学生の時には渓流釣りにハマっていて、どちらかというと釣りに行くために山登りをしていました。それでも奥多摩の山小屋に一人で泊まったり、冬の鳳凰三山とか金峰山に行ったりするものですから、いつの間にか親から2,000万円の生命保険を掛けられたりしました(笑)。
 海外登山は1980年ペルーアンデスからの1992年ネパールのアマ・ダブラム(6,812 m)まで計7回行っています。どの山も良かったのですが、1986年にカモシカ30周年の企画で青田浩とアルパインスタイルで登ったプモリ(7,161 m 冬季第四登)は特に印象に残っています。
 海外の山はスケールが大きいから近くに見えても、実際に歩くとなかなか近づいてこないんです。高所に行くためには高所順応が必要なように、その国の環境に適応しなかったらその国の山も楽しめない。だからアプローチでも、なるべくその国のものを食べてその国の言葉を話して文化を理解するようにつとめると、より楽しめます。
 また、海外に行って気づいたのですが、日本の山は自然が豊かなんです。狭い国土なのに世界有数の豪雪地帯があって、そういう山に春咲く花がとても素晴らしかったり、低い山でも冬になると葉が落ちて眺めが開けて日当たりも良くなってホッと出来たり、植生にしても非常に多彩です。

大切にしていること

 若い頃は「一か八か、これで死んでもいい」と思って突っ込んでいくこともあったけど、山で死ななかったお陰で、こうして今も働かせていただいています。
 私が大切にしていることは「嘘をつかないこと」「知らないことを知らないということ」。
 昔はお客様から「この山に行ったことはある?きついの?」なんて聞かれることがよくあったんです。バリバリの若い頃は、北八ヶ岳とか南アルプスの南部とか興味がないから知らないんですが、でもそこで、「知らない、行ったことがない」というのが悔しくて、だから行きたくもない山にも良く行ってました。でも行ってみると、いい山なんですよね、どんな山でも。知らないって言うのは、勉強が足りないということです。だから悪い発想にならないためにも、良く勉強しなきゃいけないですね。
 商品については、安すぎるもの高すぎるものには、それぞれ理由があります。高くて良いのは当たり前、そして、安物には安物の理由がある。
私は、お客様の予算に応じてしっかりとした良いものをおすすめしています。そうして、買っていってくれて山行から帰って来たお客様から、「良かったよ」って言ってもらえた時は本当に嬉しいです。ズバリお客様の欲しがっているものをご紹介できた時も「いい仕事が出来たな」って思います。

まだまだ山に登り続けたい

 これから登りたい山は沢山あります。今は、日高山脈のカムイエクウチカウシ山に行きたいし、登っていない山・ルートはそれこそ数えきれないほどあります。
 百名山ブームがあって、山の良し悪しなんて話もあるけど、悪い山なんてひとつもないですよ。その時その時で登りたい山があって、それに集中出来ていたらそれが一番幸せなことです。
そして、なるべくなら、人のいないルート、ちょっと苦労するルート、ピストンよりは縦走、そういう登山がいいなと思います。 

笹原芳樹(ささはら よしき)

1958年千葉県生まれ。カモシカスポーツ社員、東京都山岳連盟海外委員、日本山岳・スポーツクライミング協会国際部常任委員、日本ヒマラヤ協会会員、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト会員、日本山岳文化学会会員。「体験的山道具考 〜プロが教える使いこなしのコツ〜(ヤマケイ新書)」を2014年に上梓。