CONCEPT of クロスオーバードーム

開発者に訊く「クロスオーバードーム」の全て

hiiクロスオーバードームは、世界初の厳冬期用ドーム型テントを開発した山岳テント「エスパース」ブランドや クライミングからトレイルランニングまでオールラウンドな登山用品を手がけている株式会社ヘリテイジによって企画開発されています。開発者は、70-80年代に先鋭的クライマーとして国内外で数々のルート開拓・初登の実績を持つ野中玲樹さんです。今回はその野中さんにクロスオーバードームの開発コンセプトとその機能性・物づくりへの思いをうかがいました。

「軽さ」と「快適さ」へのニーズ

――開発のきっかけを教えて下さい。
野中 冬山で写真撮影をしている時に日の出を待つ間に快適に過ごせる軽量シェルターが欲しくてエマージェンシードームという商品を作ったんですが、あるユーザさんから、それに「目止め(防水テープ)をしてくれないか」っていう依頼があったんだけれど、当時のアクリルコーティングの生地には目止めができなくてね。でも、その後も販売店のスタッフからも色んな声が上がってきたので、生地メーカーに要望を出して、ポリウレタン透湿コーティングの生地を作ってもらって、その生地でバスタブ式の超軽量ポールを使用したフルシーム(完全目止め)シェルターを作ってみた。そして最終的に上がったものがこのクロスオーバードームなんです。


――みんなの要望を聞いているうちにいつの間にか出来上がっていたという感じですね。
野中 クライミングやファストパッキングで言うところの軽さというのは、行き着くところまで行くと快適さや楽しさが失われてしまう場合があるんだけど、昔と違って「極限の軽さ」から「ある程度の快適を保った軽さ」まで、軽さのレベルを選べる時代になったと思うんです。クロスオーバードームがそうしたニーズから生まれたのは確かです。

そのディテールについて

――耐風性・強度について教えて下さい。
野中 クロスオーバードームは、エスパースのDNAを受け継いでいるので、張り綱を張れば耐風性は充分あります。でもテントでなく、あくまでドーム型の空間が作れるツェルトなので、地面に接するバスタブ部分も15Dの生地そのままです。素材が薄く耐摩耗強度はないので張る場所は充分に考えて使っていただきたいですね。

――エントランスのファスナーは、2つに分割されていますが、なぜ1本にしなかったのでしょうか。
野中 開閉の操作性だけを考えた場合には、明らかに一本の方が良いんですが、でもそれだとファスナーを直角に曲げる必要があります。その場合ファスナーへのストレスが高くて壊れやすくなるのと、縫製上のコストも大きくなる。そういう理由でエントランスのファスナーはあの形になっています。


――軽量化に特化したモデルですがベンチレーションは2つあります、その理由はなんでしょうか。
野中 仰るとおり軽量化のためにはベンチレーターは1つという可能性もあったんですが、やはり生地の特性と換気のことを考えて前後二カ所に設けました。これにより室内の結露が軽減されます。素材は、透湿性はあるけど通気性はないナイロン製ポリウレタン透湿コーティングを採用しています。冬山で閉めきって使用したら息苦しくなったという話も聞いていますが、注意書きにもあるように、ベンチレーションやファスナーを使用して常に通気は確保してください。

――使用しているポールは特にこだわりがあると伺っていますが。
野中 ポールには、ユナン社のウルトラライト7.5mm径のポールを採用しています。シェルターに使用するポールとしては限界の細さだと思いますし、私の知る限り日本ではまだどのメーカーも採用してないですね。最初は製造に時間がかかったのですが、技術が確立したのか、現在は納得の行くクオリティのものをスムーズに出してもらえるようになりました。クロスオーバードーム開発のタイミングで軽量化に大きく貢献するこのポールに出会えたことは幸運でした。あと、ポールスリーブの滑りは良いのですが、生地は極限まで薄くしています。勢い良くポールを入れると破れる可能性があるので、是非ゆっくり末端まで通してください。

野中氏の「クラフトマンシップ」

――オーソドックスな質問ではありますが、製品をつくるにあたって、野中さんが大切にしていることを教えてください。
野中 物づくりで大切にしていることは、クラフトマンシップですね。何というか、自分で納得していないものは世の中に出さないという。テントは、特にシルエットにこだわっています。少しでもたるみがあるものは許せない。たるみがあると、雪は積もるし風にバタつきやすくなります。エスパースのテントはシンプルな構造なだけにごまかしは効かないし、サイズが大きくなると生地に張りを出すための調整は非常にシビアになるんですが、妥協せずにやっています。良い製品は、見ていてもシルエットが気持ち良いものですよね。実際のテント作りは、始めにまず自分で最初のパターンを作って、そこから2回ぐらい、多い時は4、5回試行錯誤と調整を重ねて、完璧なサンプルを作ります。ここに非常に時間をかけています。

――実際に工場ではどのように生産されているんでしょうか。
野中 工場での生産では、裁断して生地を置いておくと湿気を吸って伸びてしまうことや縫い手の練度などで、また形が変わってしまうんです。
だから、工場に頼んで終わりというわけではなくて、現地に足を運んで、実際に縫い方のレクチャーを行ってそこでもサンプルを作る。そこで納得の行くものが出来てようやく生産ラインに乗せるという工程を踏みます。でもそこがなかなか難しくて、特に言葉の通じない国だと、間に二人も通訳が入ってわけがわからなくなったりしたこともあります(笑)。結局、工場の環境や技術力に合わせたやり方を一緒に考えて生産することとなります。
国内はもちろん、ヒマラヤなどの海外遠征でもエスパースが使われ続けているのは、耐風性の高さだけでなく、品質をしっかり見届けている事への信頼からなのかな、と思います。もちろんクロスオーバードームについても私が直接工場に出向いて品質に間違いないものを作っています。

いままでの限界を超えるために使って欲しい


――最後になりますが、開発者としてクロスオーバードームを使う方へメッセージがあれば教えて下さい。
 野中 「クロスオーバードーム」という商品名には、今までの活動の垣根を超えて欲しいという思いが込められています。
例えば、沢登りをして稜線に上がったらそのままトレランをするような、楽しみの領域を更に広げる・自分の限界を超えるためのアイテムとして使って頂けたら嬉しく思います。
人間にとって自分の空間を確保することは精神的な安らぎをもたらしますし、少しでも身体を深く休めることはコンディション維持の効果が大きいので、クロスオーバードームで質の高い休息をとっていただいて、どんどん自分の山の遊び方を拡げて下さい。

 

野中玲樹(のなかれいじゅ)さん プロフィール

野中玲樹さん
1953年、福島県生まれ。
学生時代より岩壁登攀に魅了され、ルート開拓を中心とするクライミングでその名を馳せる。1980年よりエスパースの製作に携わり「エスパース」シリーズの展開・改良などその全てを担当し、今に至る。語り口は寡黙ながらも、テント作りを知り尽くすクラフトマンシップに溢れた、まさに「ミスター・エスパース」である。
主な登攀歴:
カラコルム・トランゴI峰 初登
黒部丸山南東壁 動物ランド開拓
黒部丸山東壁左岩稜フランケ アペンディクス開拓
唐沢岳幕岩正面壁 ドリームタイム開拓
硫黄岳前衛壁 イベルナージュ冬季開拓
不帰岳II峰西壁 中央チムニー冬季初登
谷川岳一ノ倉衝立岩正面壁 不思議ロード開拓 etc.
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