オールシーズン対応シングルウォールテント|エスパース・クエスト フィールドレビュー
ヘリテイジより全天候対応のオールシーズン対応シングルウォールテント「エスパース・クエスト」が発売されました。
防水素材に「eVent」を採用し、雨でも雪であっても、テント内が浸水することがありません。
また「eVent」という素材は通気性を備えているため、テント内の結露を最小限に抑えることができます(完全に防ぐことはできません)
今回使用しているeVentのスペックは、30dnナイロンリップストップの生地厚で、耐水圧20,000mm(JIS L 1092B タフタカバー法)、透湿性10,000g/sqm/24h(JIS L 1099 a1)という性能の素材です。
ボトム部分は40dnのナイロンタフタPUコート耐久撥水加工の素材を使用。
ポールはDAC製のフェザーライトNSL9mmを使用しています。
生地の厚みやポールの太さから、剛性と耐候性・の高いテントパネルやボトムと、強風にも耐えられる耐風性に優れた素材を組み合わせて作られています。
上記のような、丈夫さや耐候性の高さを重視しているため、昨今の流行りである軽量テントの流れではなく「あらゆる山岳環境において安心して使える本格派山岳用テント」というようなイメージのテントとして作られれています。
エスパース・クエストは、1人用の「クエスト1」と2人用の「クエスト2」の2サイズ展開です。
人数や山行スタイルに合わせて大きさを選ぶことができます。重量は、一人用で1.34kgで二人用は1.48Kgとなっています。
(重量は収納袋、張り綱を含む。付属ペグ8本0.1kgは含まない)
今回、クエスト1を使用して北アルプスの奥穂高岳に2泊3日で登ってきました。
日程とコースは、1日目は上高地から岳沢小屋、2日目に岳沢小屋から重太郎新道を登って、吊り尾根を歩いて穂高岳山荘、3日目は穂高岳山荘からザイテングラードを降りて涸沢から上高地へ。
1日目が雨予報だったため、上高地から岳沢小屋までで歩く時間を最小限にするプラン。2日目は早朝に出発。夕立ちで雨に降られないように、お昼前までに穂高岳山荘を目指します。3日目が実は一番ハードで、穂高岳山荘から涸沢へ降りて上高地までとにかく歩く、ひたすら歩くという感じです。
1日目 岳沢小屋テント場
上高地から岳沢小屋まで、3時間弱の行程。
河童橋を渡って岳沢方面へ歩き始めると、次第に雨が降り始めてきました。
上下レインウェアを着込んで、ジメジメと蒸れていく樹林帯の中を登っていきます。
岳沢小屋に到着する頃には、結構な本降りになっていました。
小屋の玄関で少し待っても止みそうもない勢いだったので、濡れる覚悟を決めてテント場に移動。さっそくクエストの設営を始めました。
オプションの前室フライ
クエストにはオプションで専用全室フライが用意されています。
シングルウォールテントなので、本来であればフライシートは必要がありませんし、設営のはやさを考えればフライがない方がシンプルでスピーディーに設営ができることは想像していただけると思います。
しかし、今回のようにしっかり雨に降られてる場合では、全室フライのありがたさがよく分かりました。
たとえば、登山靴をテント内に入れなくて済むし、テントの出入り時も雨で濡れてしまうのも最小限にできます。
シングルウォールテントでのテント泊を、より快適にしてくれるアイテムだと、改めて実感しました。
また、その他のオプションとして質問が多いアンダーグランドシートについてですが、シングルウォールテントの場合、アンダーグランドシートを併用してしまうと、雨などがテントパネルを伝ってボトム下とアンダーグランドシートの間に水が溜まっていくことがあります。
防水加工をされたボトムではありますが、耐水圧を超える圧力(荷物を置いたり、自身が座ったり寝たりするときの重み)がかかると染み込んできてしまうので、アンダーグランドシートのオプションはご用意していません。
クエストの前室フライは快適なのか
とはいっても、今回は雨の中でテント設営。
できれば素早くスピーディに済ませて、はやくテントの中に逃げ込みたいところです。
この全室フライは、簡単にテント本体と接続ができますし、快適度を上げるアイテムです。
ただし、テント本体と接続するまでの手順が多く、張り綱の固定箇所が増えることもあり、思っていたより時間がかかってしまいました。
張り綱の引き加減や固定場所を探している間に、雨に打たれ続け、なんだか体が冷えてきたぞ、というタイミングでやっと設営が完了。びしょ濡れのままテントの中に逃げ込みました。
登山用品店で働く者として、美しくテントを設営したいと思ってしまうのは僕だけでしょうか。
2日目 重太郎新道から吊り尾根を登って奥穂高岳へ
雨は前日の夕方には一段落しました。
2日目以降は、夕立ちや雷雨の予報が絶えず、とにかく早出早着を心がけての行動としました。
岳沢小屋を暗いうちから出発し、重太郎新道を登っていきます。
明るくなった頃には、上高地、大正池にかかる雲海と、その雲海に浮かぶ焼岳と乗鞍岳方面がきれいでした。
午前中は晴れの予報でしたが、予報よりも晴れ間が広がらず、ガスの中を歩いていると、ほぼコースタイム通りに奥穂高岳へ到着。
お昼すぎには降雨予報があり、それまでには到着してテント設営を済ませておきたいと考えていたので、ばっちり予定通りでした。
奥穂高岳山荘のテント場
穂高岳山荘のテント場は、ヘリポートの脇と、斜面に作られた段々畑のようなスペースにあります。
大型テントや広々とテントを設営したい場合は、ヘリポート脇のスペースがおすすめです。
今回は、シングルウォールテントのメリットである「省スペース」を活かすべく、段々畑のエリアに設営することに。
シングルウォールテントのクエストは、フライシートが必要がないため、テント本体分のスペースがあれば設営が可能です。
フライシートが必要なダブルウォールテントは、フライシートの裾の広がり分のスペースを考えて設営しなければならないので、思っているよりも広めのスペースがないと設営ができないのです。
段々畑にあるテント場は、ギリギリ一人用テントが張れるかどうか、というスペースがほとんどです。
しかし、そんな狭いスペースでもクエストなら壁ギリギリに設営ができます。テント入口部分のスペースも確保できるためストレスもありません。
また、混雑するテント場や、もともと限られたスペースしかないテント場でも、設営しやすいです。
この日は全室フライを使用せず、本体のまま設営。やはり本体のみの設営はスピーディです。
特に、クエストではポールスリーブがシンプルなポケット状になっています。
テントの片側からポールを入れて、そのままテントを立ち上げるだけ。
テント初心者の方でも分かりやすいですし、慣れている方でしたら、その設営の速さにメリットを体感していただけると思います。
また、ポールの差込口の末端はグロメット形状になっています。よくある形状ですが、ここにもオールシーズン対応テントである特徴があります。
ポケットが閉じられた方にはグロメットが一つあり、ポールを差し込んでいくと、グロメットに収まる仕組みです。そして、差込口になる反対側は、3連グロメットになっています。
この構造は、標高や気温などにより、ポールのしなり具合や、生地部分の伸縮率が異なるので、その時々に合わせてポールを差し込めるように3つの穴を備えています。
この工夫がオールシーズン対応としている部分です。
夏山や低山でしたら、内側の位置にポールを差し込めますし、雪山や寒冷地の場合は外側の位置に差し込んで使用します。
結局、雨は夕方に降り始め、日が暮れたころにやっと外に出ることができました。
穂高岳山荘の裏から見える夕陽は、ぜひ一度見てもらいたいです。
この日は雨上がりと同時に日暮れだったので、雲がまだ多かったですが、それでも十分きれいな景色が見られました。
今回は夕立ちによる一時的な雨だったため、総雨量は多くありませんでした。
たとえば雨が振り続け、テントから出ることもできないような雨量になった場合でも、入り口から雨が浸水しない設計になっています。
まず、ファスナーの裏側にはフラップが付いています。万が一ファスナーから浸水したとしても、フラップ部分で浸水が止まる仕組みです。
フラップに溜まった水は、下部にあるメッシュ部分から外に排水されます。ファスナーの外側に溜まってしまった場合は、排水口となるドレンホールから出ていく構造です。
3日目 上高地まで下山
夜中は少し風が吹いていて、テントが軽く揺さぶられました。
寝ているときに、顔に水が垂れてきたと思って確認してみると、天井部分に結露による水滴がありました。
結露ができてしまうのはシングルウォールテントの構造上、ある程度割り切って考えて、仕方がないものと捉えています。
吸水性の高いタオルや手ぬぐい、濡らしたくないものの防水の対策など、快適に過ごす工夫はたくさんあります。
実際に使用した感覚ですと、天井部部に水滴ができるものの、他の場所には結露は見られませんでした。
色々な理由があると思いますが、テントの天井部分は温かい空気や湿気が溜まりやすく、外気温との気温差などで結露ができてしまったと予想しています。
他の部分で結露がなかったのは、eVentの特性である「通気」が上手く機能し、テント内の空気が対流していたのだと思います。
生地の特性による通気があり、空気が対流していたと予想しますが、それによる寒さを感じるほどではありませんでした。
やがて夜明けが近くなり、日の出とともに行動を始めました。
シングルウォールテントは設営が早いというメリットを何度も書きましたが、撤収も早いのがシングルウォールテントのメリットの一つです。
eVent生地の通気性のおかげで、テント内に残った空気抜けがよく、袋へ収納するのもスムーズ。
おかげでバタバタと慌てて支度することもなく、用意を済ませることができました。
朝日を浴びながらザイテングラードを降りて、涸沢に到着して一呼吸。上高地までの歩き慣れた道を足早に下山していきました。
2泊3日の充実の縦走と、様々な条件でエスパースクエストを試すことができました。
エスパースクエストのまとめ
あらためて、クエストの特徴をまとめます。
- オールシーズン対応のシングルウォールテント
- 軽量テントではなく、様々な山岳環境で使用できる堅牢性のあるテント
- 防水透湿性素材はeVentを使用
- 防水性と透湿性に優れ、結露を最小限におさえてくれる(結露を完全に防ぐことはできません)
- ポールスリーブ式の設営方法+末端のポケット形状によりスピーディな設営が可能
- テント本体分のスペースがあれば設営が可能
- 居住性に優れたテント室内の天井の高さ(一人用:105cm、二人用:115cm)
- より快適なテント泊を楽しみたい方に別売オプションで専用全室フライをご用意
- 天井部分にはハンモックネット(小物置き)の別売オプションが取り付け可能
- アンダーグランドシートのオプションはなし
- 冬用の出入り口「ウィンターエントランス」は別売オプションでご用意
クエストの使用感については、オールシーズン対応ということで、次回は雪山での使用もレビューしたいと思います。
本店 茂垣
エスパースクエス / クエスト
1人用 ¥76,780(税込)
重量1,34kg(収納袋・張り綱含む。付属ペグ8本0,1kgは含まない)
サイズ 奥行100×幅210×室内高106cm
2人用 ¥81,400
重量1,48kg(収納袋・張り綱含む。付属ペグ8本0,1kgは含まない)
サイズ 奥行128×幅210×室内高115cm
素材:30dnナイロンリップストップeVent WATERPROOF、グランドシート:40dnナイロンタフタPUコート耐久撥水加工、ポール:DACフェザーライトNSL 9mm